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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2517号 判決 1977年11月29日

控訴人

株式会社丸信

右代表者

西原基一

右訴訟代理人

平井博也

外三名

被控訴人

社団法人岩手県

産業会館

右代表者

岩持静麻

右訴訟代理人

永井一三

補助参加人

東土地開発有限会社

右代表者

伊藤東雄

右訴訟代理人

菅原一郎

外一名

主文

原判決を取消す。

被控訴人は、控訴人に対し金七、二二五万八、一五一円およびこれに対する昭和四九年四月一六日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

本判決は、仮りにこれを執行することができる。

事実《省略》

理由

一請求原因(一)について

当審も原審と同じく控訴人と参加人との間に昭和四九年一月三一日本件不動産について代金を金三億八、五〇〇万円とする売買契約が締結された事実はあるが、同年三月二九日に金二億六、〇〇〇万円の支払に関し控訴人、参加人および被控訴人の三者間に三面契約が成立したことはこれを認めることはできないとするものであり、その理由として次の(一)ないし(六)の附加訂正をするほか原判決書摘示の理由中同判決書一四枚目表二行目から同一六枚目裏七行目までおよび同一七枚目表三行目から同一九枚目裏九行目までを引用する(ただし右個所中「訴外会社」とある部分の下にいずれも(参加人)を加える。)

(一)  ないし(六)<省略>

二請求原因(二)について

請求原因(一)の三面契約が認められないとする前段の認定事実(前記の附加訂正のうえ引用する原判決理由中の認定事実)からすれば請求原因(二)の控訴人と被控訴人間の支払約束が成立した事実を認めるに足りず、請求原因(二)もその理由がない。

三請求原因(三)について

参加人が被控訴人に対し、同人ら間の本件不動産売買代金(それが少くとも金五億一、五〇〇万円であることについては当事者間に争いがない。)のうち金二億六、〇〇〇万円を控訴人に対し支払うべき旨の支払委託をし、この委託に基づいて昭和四九年三月三〇日内金一億円が被控訴人から控訴人に支払われたが、同年四月一五日右の委託取消により被控訴人が残金一億六、〇〇〇万円を直接参加人に支払つたことは当事者間に争いなく、前示の附加訂正を加えて引用する原判決書一七枚目表三行目から同一九枚目裏九行目までの理由中の事実認定によれば、右参加人と被控訴人間の本件不動産売買代金中金二億六、〇〇〇万円の受領代理権を参加人が控訴人に付与し、かつこれと同時になされた被控訴人に対する参加人の右支払委託は控訴人主張のような事情、すなわち前示控訴人と参加人間の本件不動産売買の合意解約による代償金支払担保の趣旨でなされたものであり、被控訴人は右支払委託に応じた際はその間の事情について控訴人に支払うべき金二億六、〇〇〇万円が右のような合意解約が代償金支払の意味をもつものであるとまでの詳細はこれを了知していなかつたとしても、参加人と控訴人間の本件不動産売買に関し、控訴人が参加人に対して取得するに至つた金二億六、〇〇〇万円の債権担保の意味をもつものであるとの事情はこれを充分了知していたものとすることができる。そうだとすると右委託の取消は、参加人の控訴人に対する義務違反であることは明かであるが、参加人の被控訴人に対する金員支払の委託関係はたとえその委託が右のような事情によることを被控訴人が了知していたとしても、被控訴人が参加人に対して支払うべき本件不動産の売買代金の一部を控訴人に支払うという単なる事務委託であつて、元来参加人は被控訴人との関係においてはこれを任意に解約し得るものではないかと一応考えられる。しかしそれにもかかわらず被控訴人が右支払委託取消に籍口して金一億六、〇〇〇万円を直接参加人に支払い、これをもつて被控訴人の参加人に対する本件不動産の売買代金中同額の弁済がなされたとして控訴人に対する右金員の支払を拒絶することは信義誠実ならびに公平の原則からこれを許容することができないと解する。けだし右支払委託が控訴人の参加人に対する債権担保の趣旨、すなわち控訴人の利益のためになされたものであることを知りながらこれに応ずるのは実質上控訴人を受益者、参加人を要約者、被控訴人を諾約者とする第三者のためにする契約が成立したのと同視すべき法律関係であり、この契約上の受益者と見做されるべき控訴人が支払委託金二億六、〇〇〇万円の一部である金一億円の支払を受け、その受益の意思を表明したと見るべき昭和四九年三月三〇日の後である同年四月一五日に至つてからの委託取消を有効なものとし、被控訴人の参加人に対する金一億六、〇〇〇万円の直接支払に同人に対する売買代金の弁済としての効力を認めるのは、第三者が受益の意思を表明した後においては要約者と諾約者の合意だけによつて受益者の享受し得べき利益を覆滅できないとする信義誠実および公平の原則に則つた第三者のためにする契約の効力に関する法理に照らし容認することができないからである。

したがつて被控訴人は、控訴人に対し委託取消を理由に参加人に直接金一億六、〇〇〇万円を支払つたことをもつて同人に対する売買代金中の同額が弁済され、これにより同額の売買代金債権が消滅したと主張することはできず、右売買代金の受領代理権を有する控訴人に対し同額の支払を拒むことはできない筋合であり、その履行期は遅くとも被控訴人が参加人に対し前記の支払に応じた際に約した第二回目の支払期日である昭和四九年四月一五日であり、履行期後の遅延損害金の利率は元来被控訴人が控訴人に支払うべき金員が被控訴人の参加人に対する本件不動産売買の代金であり、而して参加人は有限会社であるところから商事の法定利率年六分の割合によるべきである。<後略>

(菅野啓蔵 舘忠彦 高林克巳)

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